「新百合ヶ丘」は、住所にない 麻生区の名前のなぞを解く

最終確認日
麻生区の町名の一覧に、「新百合ヶ丘」という町は、ありません。
駅の名前としても、バス停の名前としても、毎日のように目にするのに、です。この記事は、そのなぞから始めて、区の名前と地名のわけを、5つ解いていきます。
犬新百合ヶ丘って、町の名前じゃないの?
猫川崎市の町名一覧には載っていないの。それどころか、「柿生」も「五月台」も、「麻生」だけの町もないのよ。
謎1 新百合ヶ丘は、どこの町?
川崎市の「区別町名一覧表(麻生区)」(2023年12月28日更新)を見ると、駅名の「新百合ヶ丘」「柿生」「五月台」は、町名として載っていません。区の名前の「麻生」も、あるのは「上麻生」と「下麻生」です。
では、新百合ヶ丘駅のまわりは、何という町なのか。市の委託で日本地名研究所がまとめた報告書(2018年)には、こう書かれています。「新百合ヶ丘という地名はない。万福寺という寺もない」。
報告書によると、新百合ヶ丘駅があるのは万福寺1丁目です。万福寺1・2丁目は1984年(昭和59年)、3〜6丁目は2007年(平成19年)に、住居表示が実施されました。
写真は、万福寺のおやしろ公園から駅の方向を見たもの(撮影者の説明による)。フィットネスクラブの看板にも「新百合ヶ丘」とあります。町名ではなく、駅の名前が、街の顔になっています。
謎2 その万福寺は、どんなお寺?
実は、いまは、ありません。報告書は、むかしこの地にあっただろうお寺の名が地名になったと「考えられている」と書くにとどめています。お寺の跡がはっきり見つかっているわけではない、ということです。
王禅寺の中の「真福寺」も、同じです。お寺は明治のはじめに廃寺になりましたが、名前は地名や町内会の名前として、お寺がなくなってからも長く使われてきた、と報告書にあります。
お寺がなくなっても、名前は残る。麻生区には、そういう名前がいくつもあります。
謎3 区の名前は、なぜ「柿生」でなく「麻生」?
ここが、いちばん「へえ」でした。
区の名前を一般から募集したとき、いちばん多かったのは「柿生区」だった、と地元紙のタウンニュースは書いています。それでも決まったのは「麻生区」。理由は、鎌倉時代の末ごろから「麻生郷」の記録があり、柿生より歴史が古いこと、上麻生が柿生の中心でもあったこと、とされています。(この募集の経緯は、市や区の公式ページでは確かめられず、地元紙の記事によります。)
「麻生」の名は、8世紀ごろ、朝廷に納める麻布の原料の麻を産したことによる、と区役所のページに「伝えられています」とあります。
では、「柿生」は? こちらは、明治22年(1889年)に、まわりの村が合わさってできた「柿生村」の名前です。名前のもとは、禅寺丸柿。くわしくは 禅寺丸柿の記事 へ。
その柿生村は、1939年(昭和14年)に川崎市に入って、なくなりました。報告書の言い方では、「わずか五十年間」。それでも、いまも柿生駅のまわりに、柿生の名前がつく施設がたくさん残っている、と書かれています。
区の名前に負けた「柿生」も、駅の名前になって、残りました。名前は、なくならないのです。
謎4 「百合ヶ丘」は、花の名前?
答えは、花の名前から、だけではありません。報告書には、百合丘の名前は次の3つのことなどから考えられた、と「言われています」とあります。
- 宅地開発に、百人あまりの地主たちが力を合わせたこと
- 弘法の松のまわりに、山百合が自生していたこと
- 山百合が神奈川県の花であること
百人、百の谷、百合。「百」がそろった、にくい名前です。
その弘法の松には、伝説があります。弘法大師が、この地に谷が100あればお寺を建てようと考えたのに、1つ足りなかったので、あきらめて松を植えた、というお話です。(伝説です。事実かどうかは、わかりません。)いまの松は二代目だそうです。
もうひとつ。町名は「百合丘」ですが、駅名は「百合ヶ丘」。ヶが入るのは、駅のほうです。町名一覧と、駅名を並べると、見つかります。
謎5 ほかの町の名前は? 「わからない」もあります
報告書をたどると、確かさに差があるのが見えます。数ある地名のうち、いくつかを並べます。
| 地名 | 由来 | 確かさ |
|---|---|---|
| 王禅寺 | 寺の名前が村の名前に(寺号を村名にした、と報告書) | 記録あり |
| 五力田 | 五人の力で耕せるほど狭い田、との説。近江から来た五人力の男が開いた、という伝承も | 説・伝承 |
| 五月台 | 五力田の「五」と大台の「台」。五月のイメージ | 駅名がつくられたとき |
| はるひ野 | 春を連想する明るい町、と開発した側が考えた | 町づくりの目的 |
| 黒川 | 川の水が澄んで黒く見えたから、かもしれない | 土地の古老の話 |
| 高石 | よくわからない | わからない |
「王禅寺」は、記録のある話。ほかは、説や伝承、あとからつけた名前、そして「わからない」。
報告書の書き手が、わからないものを「わからない」と書いているのが、いいなと思いました。わからないから、想像できるのです。
3問クイズ あなたは解けた?
Q1 新百合ヶ丘駅のあたりの、おもな町名は?
万福寺です(市の委託報告書では、駅は万福寺1丁目)。「新百合ヶ丘」という町名は、市の町名一覧にありません。
Q2 区の名前を募集したとき、いちばん多かったのは「麻生区」?
地元紙のタウンニュースによると、いちばん多かったのは「柿生区」でした。それでも、歴史の古さから「麻生区」に決まりました。
Q3 町名の「百合丘」と、駅名の「百合ヶ丘」。ちがいは?
町名は「丘」だけで「ヶ」がありません。駅名には「ヶ」が入ります。
次の一歩
自分の住所の町名を、川崎市の「区別町名一覧表(麻生区)」で引いてみてください。町名の読みと、住居表示が実施された日がわかります。同じ報告書のPDFには、麻生区のほとんどの地区の、地名のわけが書いてあります。自分の町のページを探すと、「へえ」がもうひとつ見つかるかもしれません。
駅名や町の様子を並べて見たい人は、麻生区の7つの駅を並べてみた と 麻生区クイズ10問 もどうぞ。
出典
- 川崎市「区別町名一覧表(麻生区)」(2023年12月28日更新)
- 川崎市委託事業報告「川崎市北部 多摩区・麻生区の町名の移り変わり」(日本地名研究所、2018年)(万福寺・真福寺・柿生村・百合丘・王禅寺・五力田・五月台・はるひ野・黒川・高石)
- 川崎市「麻生区 概要・概況・特性」(2008年10月6日更新。「麻生」の名の由来)
- 川崎市麻生区「区のプロフィール」(柿生の由来)
- タウンニュース「麻生の歴史を探る 麻生郷〜区名由来〜」(区名の公募の経緯。地元紙の記事)
内容は変わることがあります。最新は公式の案内で確認してください。
掲載内容は最終確認日時点のもので、変わることがあります。営業時間・料金・予約や申し込みの方法など、正確な情報は、店舗・施設・主催者・役所の公式の案内でご確認ください。当サイトでは、掲載先についての個別のお問い合わせにはお答えできません。
