黒川駅の住所は「黒川」ではない 293人の町と、川崎の秘境のあいだ

黒川の田んぼと畑。奥に雑木林の丘が見え、水田のそばで人が作業している
写真:Hahifuheho/CC0(自由に使える写真です・出典(別のウィンドウで開きます))。サイズを調整しています。

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黒川駅の住所は、黒川ではありません。

小田急電鉄の駅案内には「川崎市麻生区南黒川4-1」とあります。南黒川は、約280m四方ほどの広さしかない町です。川崎市の委託調査の報告書は、家はほとんど見られない、と書いています。

駅名は黒川なのに、駅のある町は別の名前。なぜでしょう。この記事は、そのなぞから始めて、駅のまわりと、その外にある里山を、公開されている資料だけで歩きます。私たちは、まだ現地に行っていません。書いてあるのは、資料から読み取れたことだけです。

犬黒川駅って、住所も黒川なんでしょ?

猫それが、ちがうの。駅のあるところは、黒川の外なのよ。理由は、駅が先で、町があとだったこと。

駅は「黒川」、住所は「南黒川」。どうして?

答えは、駅ができた順番にあります。

小田急多摩線は1974年に開通し、黒川駅もこのときできました(麻生区役所の年表)。その5年後の1979年に、黒川の字「宮添」の一部が、土地区画整理でできた新しい町として、住居表示が実施されました。これが南黒川です(日本地名研究所の報告書、2018年)。

つまり、駅が先で、町はあと。駅の北側に新しい町をつくったとき、黒川の南の部分だから「南黒川」になった、と読めます。(名づけの理由は、資料に書かれていません。位置から私たちが考えた推測です。)

黒川駅の北口。階段とエレベーターの案内、駅名の看板、植え込みのある広場
黒川駅の北口(撮影:Hahifuheho/CC0。ウィキメディア・コモンズ)
293人南黒川に住んでいる人の数(2025年9月)。143世帯。川崎市の町丁別年齢別人口にもとづく、麻生区地区カルテの数字です

人が住まない町は、何のためにつくられたの?

働く場所です。

麻生区のプロフィールには、南黒川地区と栗木地区にある「マイコンシティ」に、エレクトロニクスや先端技術の施設が集まり、研究開発の拠点になっている、とあります。川崎市の「南黒川地区地区計画」を読むと、この町の設計図が見えます。

  • 約5.9haのうち、約4.4haが「研究開発施設地区」
  • その地区には、住宅・共同住宅・寄宿舎などを建ててはいけない、と書かれている
  • 研究開発の会社ができるように、店や飲食店も、この地区では制限されている

最初から、「住む町」ではなく「働く町」として計画されていたのです。(ただし、この計画書には決定の年が書かれていません。駅前は、その後に変わっている可能性があります。いまの細かい規制は、確認できませんでした。)

ここで、数字を1つ。黒川駅の1日の乗り降りは9,161人(2025年度、小田急電鉄)。南黒川の人口293人の、約31倍です。駅を使っている人の多くは、この町に住んでいる人ではない。そう考えると、数字の意味がつながります。

駅の外には、何があるの?

「川崎の秘境」と呼ばれた谷戸が、駅のある南黒川の外に広がっています。

1974年に京王相模原線と小田急多摩線が通るまで、黒川は人の行き来が少なく、報告書の言葉でいえば「川崎の秘境」でした。駅のある南黒川とは別に、黒川という町があります。その数字を並べます。

  • 黒川の面積 202ha報告書(2018年)の数字。南黒川は8ha。
    麻生区の面積23.11km²(川崎市の概況、2008年)の約9%(黒川と南黒川の合計)
  • 黒川の人口 3,307人(2025年9月)
    南黒川と合わせて約3,600人。区全体(177,797人)の約2%。1平方キロあたり約1,700人で、区全体の約7,700人の、4分の1ほど(私たちの計算。面積と人口の年は少しずれます)
  • 市街化調整区域と営農団地報告書は、開発がいちばん遅かった黒川は、川崎市では数少ない、農業が中心の市街化調整区域だと書いています。
    黒川上営農団地、黒川東営農団地がある
  • 緑地の割合 16%以上黒川全体に占める緑地の割合(報告書)
    特別緑地保全地区は17か所で、あわせて42.5ha
  • 黒川炭江戸時代の天保のころから黒川炭がつくられた(麻生区のプロフィール)
    報告書は、川崎で最後まで黒川炭を焼いた家が、鷹ノ巣という山地にあった、と書いている
  • 黒川の遺跡営農団地をつくるときの発掘で、先土器時代の石器や、最古の縄文土器が見つかった(報告書)
    報告書は、早くから開けたところと思われる、としている

写真は、黒川の田んぼと畑です(撮影者の説明では、黒川で2013年6月に撮影)。田んぼのそばで、人が機械を押しています。写真は2013年のものです。いまの様子は、現地で確かめていません。

川崎でいちばん高い場所は、黒川?

報告書は、黒川の西谷にある丸山(標高149.5m)を、市内でいちばん高い地点と書いています。区の「地形」のページ(2008年3月19日更新)も、黒川の町田市との境の海抜148mを、川崎市でいちばん高い所としています。数字は少し違いますが、どちらも場所は黒川です。

「黒川」という名前は、どこから来たの?

はっきりした答えは、ありません。報告書は、2つの説を並べています。

  1. 三沢川説 この地域を流れる三沢川のことと思われる。
  2. 古老の話 川の水が澄んで黒く見えたので黒川の名がついたのかもしれない、と土地の古老が話した。

どちらも、「かもしれない」です。確かな記録は、700年近く前までさかのぼれます。

南北朝時代の貞治6年(1367年)、お仁々局という女性が、黒河郷の半分を円覚寺の塔頭、黄梅院に寄進しました。これが、黒川の地名が歴史に初めて出る場面だと、報告書にあります。

もうひとつ、黒川の谷には、おもしろい地名があります。はるひ野の町は、黒川の字「谷ツ」などからできていて、谷ツの小さな地名が「牢場(ろうば)」です。馬は急な斜面を登らないので、谷の口をふさげば、馬を放しておける。そういう場所を「ロウバ」と呼ぶのだ、と報告書は研究者の説を引いています。黒川のローマザワの近くからは、馬をつなぐ跡とみられるものも見つかったそうです。春をイメージした新しい町名の下に、馬の谷がありました。

黒川の歴史を、年表で見ると?

  • 1367年(貞治6年)黒河郷の半分を、円覚寺の黄梅院に寄進
    日本地名研究所の報告書(2018年)
  • 1889年(明治22年)柿生村の大字黒川になる。1939年に川崎市へ入る
    同じ報告書
  • 1974年6月小田急多摩線が開通し、黒川駅ができる
    麻生区役所のあゆみ(2024年3月27日更新)、報告書
  • 1979年住居表示で、南黒川ができる
    報告書
  • 1982年麻生区ができる(黒川駅は、区より8年先輩)
    麻生区役所のあゆみ
  • 1983年・1991年黒川青少年野外活動センターが、仮の名前で試験的に開放(1983年4月)。いまの施設が開所(1991年8月)
    川崎市「青少年教育施設の概要について」
  • 2004年・2006年はるひ野駅ができる(2004年)。町名「はるひ野」が生まれる(2006年)
    麻生区役所のあゆみ、報告書
  • 2012年4月明治大学黒川農場が開設
    明治大学の黒川農場のページ
  • 2018年4月に読売日本交響楽団の練習所が、駅前にできる。11月3日から、駅のBGMと電車が近づくメロディに、読響の演奏の録音が使われる
    小田急電鉄・読売日本交響楽団の発表(2018年10月25日)
  • 2025年3月15日ダイヤ改正で、黒川駅に急行が止まるようになる
    小田急電鉄の発表(2024年12月13日)

年表を見ると、駅の歴史は、半世紀です。それより前の黒川は、谷戸の田んぼと炭焼きの村でした。

7駅で比べると、黒川駅はどのくらい小さい?

麻生区の小田急線の7駅を、小田急電鉄が公表している2025年度の1日平均の乗り降り(乗降人員)で並べます。

  • 新百合ヶ丘117,280人 小田急70駅中10位
  • 柿生34,593人 31位
  • 栗平23,235人 44位
  • 百合ヶ丘21,003人 46位
  • 五月台10,025人 61位
  • はるひ野9,898人 62位
  • 黒川9,161人 64位

前の年度からの伸びは、黒川が+1.0%、新百合ヶ丘が+2.1%、柿生が+0.7%、栗平が+2.2%、百合ヶ丘が+2.0%、五月台が+3.5%、はるひ野が+1.4%です。黒川の伸びは、7駅のなかでは、柿生に次いで低いほうです。

黒川は、7駅でいちばん少ない駅です。多摩線でも、いちばん少ない駅です。新百合ヶ丘の、約13分の1。

ただ、少ないだけの駅ではありません。黒川駅の乗降人員は、年を追って、こう動いてきました(小田急電鉄の公表値を、ウィキペディアがまとめた表から。2003年度より前は、数え方が違う可能性があるので使いません)。

  • 2003年度5,907人
  • 2010年度8,307人
  • 2019年度8,731人
  • 2020年度7,081人(前の年度より約19%減)
  • 2024年度9,073人
  • 2025年度9,161人

22年で、約1.55倍。コロナ禍でいったん落ちましたが、2019年度より増えています。

町のほうの数字も見ます。黒川(駅のある南黒川の外の、黒川そのもの)を、麻生区全体と比べました。

  • 人口(2025年9月)黒川 3,307人/麻生区 177,797人
  • 高齢化率(65歳以上)黒川 13.82%/麻生区 24.57%
  • 年少(14歳以下)の割合黒川 12.91%/麻生区 11.51%
  • 人口の動き(2012年→2025年)黒川は約13%増、麻生区は約4%増

川崎市の町丁別年齢別人口と、麻生区地区カルテです。黒川の人口は、2012年9月の2,929人から、2025年9月の3,307人に増えました。区全体の約4%は、2012年の「約17万1千人」(区役所のあゆみ)と比べた私たちの計算です。

もうひとつ。国勢調査(2020年)をもとにした地区カルテでは、黒川の世帯の75.8%が共同住宅でした。「田園の町」というイメージとは、少し違います。南黒川は、世帯の96.3%が共同住宅です。この理由は、資料に書かれていません。

どの時間に、誰が使う駅なの?

使い方を、時間と人で分けます。

  • 朝・夕方 新宿や都心へ通う人2025年3月から、小田原線に直通する急行がすべて黒川に止まる。新宿を19時ごろ出る急行唐木田行きなら、乗り換えなしで最速35分
    小田急電鉄の発表(2024年12月13日)。日中の千代田線直通もあります。時刻は改正で変わるので、乗る前に確認を
  • 日中 マイコンシティで働く人、読響の練習所のまわり読響の練習所は、駅の北口の隣(小田急の発表)
    南口側は、フォレストモール川崎黒川(2024年11月29日開業)と複合施設ネスティングパーク黒川(2019年開業)。ウィキペディアによる
  • 休日 里山を歩く人区のウォーキングマップに、栗平駅から黒川駅への5kmのコースと、黒川駅から黒川よこみね緑地や展望台を通るコースがある
    くわしくは、坂道の多い麻生区を、ラクに歩く
  • 子どもと 野外活動黒川青少年野外活動センター(黒川313-9)は、キャンプや自然観察の施設。市の資料では、2024年度の利用が約19,500人(19,464人)、646団体
    駅からの行き方は、資料で確認できませんでした

駅の細かいことも、小田急の駅案内にありました。

  • 駅員さん 配置は9時35分〜12時、14時〜17時50分。ほかの時間は、駅のインターホンで案内(駅案内のページ。変わることがあります)
  • バス 小田急バスと神奈川中央交通ののりばがあります。行き先と本数は、各社の案内で確認してください(系統の名前は、公式ページで確認できませんでした)
  • 車いす・ベビーカー 南口から改札口、改札口から上りと下りのホームまで、エレベーターがあります

駅のBGMは、少し変わっています。小田急の発表では、2018年11月3日から、駅の中では朝6時から夜11時まで、読響が演奏したクラシックの録音を流す予定でした。電車が近づくときのメロディも、上りはメンデルスゾーン、下りはワーグナーの予定です。いまの放送内容は、確認できませんでした。

1年のなかで、いつ行けばいいの?

黒川の行事を、季節に並べます。

  • 1月 正月報告書は、道祖神のある「ハシバ」で、正月のセエノカミ(どんど焼きのような行事)が行われている、と書いている
    2018年の報告書の記述。いまの様子は、確認できませんでした
  • 通年 汁守神社黒川一番地の鎮守。報告書によると、正月、夏の天王まつり、二百十日の風祭り、秋の祭と、四季の拠り所
    日程は、確認できませんでした
  • 9月 禅寺丸柿の柿もぎ2026年は9月26日。黒川駅北口に集合。市内の小学生と保護者が対象(もう締め切りました)
    あさお区版2026年9月号。柿の話は禅寺丸柿の記事へ
  • 11月 緑と道の美術展in黒川2026年は11月1日〜30日。黒川よこみね緑地ほか。里地・里山を舞台にした野外の美術展
    あさお区版2026年10月号。2025年度で10回目。2025年は32作家31作品、会場ははるひ野駅南口から黒川海道緑地、セレサモス麻生店まで(川崎市の発表)。そのほかの秋の催しは秋のお出かけカレンダー
  • 冬 クリスマスリース作り「水辺のある里山を守る会」が、黒川よこみね緑地の保全をしている。自然の素材でリース作りなども
    あさお区版2026年10月号。日程は、確認できませんでした
  • 年間 黒川青少年野外活動センターの催し過去の事業として、幼児の「森のようちえん」、ドラム缶ピザ焼き、「黒川のおもちつき」など(市の評価シート)
    今年の日程は、確認できませんでした

美術展の話で、ひとつ思ったことがあります。秘境と呼ばれた谷戸が、いまは展示の会場になっている。出品作家の代表の方は、区の広報で、自然の中で作品に触れることが、訪れた人の元気につながればと話しています。駅に読響が流れるのと、同じ向きの話です。

3問クイズ 黒川駅、わかる?

Q1 黒川駅の住所の町名は?

南黒川です(南黒川4-1)。駅名の黒川ではありません。

Q2 黒川駅の中で流れているBGMは、何の演奏?

読売日本交響楽団の録音です。2018年11月3日から。駅の北口の隣に、読響の練習所があります。

Q3 黒川駅の1日の乗り降りは、駅のある南黒川の人口の、およそ何倍?

約31倍です。9,161人(2025年度)÷293人(2025年9月)です。

よくある疑問、5つ

Q1 急行は止まりますか? 止まります。2025年3月15日から、黒川、五月台、はるひ野の3駅に急行が止まるようになりました(小田急電鉄)。

Q2 駅に人はいますか? 駅員さんの配置は、9時35分〜12時と14時〜17時50分です。それ以外の時間は、インターホンで案内します(駅の案内ページ)。

Q3 駅の近くに、買い物ができる所はありますか? 南口に、2024年11月29日に商業施設「フォレストモール川崎黒川」ができました(ウィキペディア)。流通ニュースは、スーパーとドラッグストアの入店を伝えています。お店の時間や中身は、各店でご確認ください。北口の鶴川街道沿いにも、小さな店とコンビニがある、とウィキペディアにあります。

Q4 黒川には、どんな人が多いのですか? 地区カルテでは、14歳以下の割合が12.91%(区は11.51%)、65歳以上の高齢化率が13.82%(区は24.57%)です。1人世帯が39.9%(区は35.6%)。住んで10年未満の人が44.6%です。区全体より、若くて、住み始めて間もない人が多い町、と読めます。

Q5 黒川、南黒川、はるひ野は、どうちがうのですか? 黒川は202haで3,307人。南黒川は8haで293人(駅がある町)。はるひ野は、2004年にできた駅と2006年にできた町で、81ha(報告書)。町の名前は、住宅を売り出すときに「春を連想する明るい町」と考えた、と報告書にあります。

ここがいいよね

事実が2つあります。1974年まで「川崎の秘境」と呼ばれた黒川に、いまは急行が止まり、新宿から最速35分で着くこと。そして、黒川全体の16%以上が緑地であることです。

発見は、ひとつ。「秘境」は遠い所ではなくなったのに、秘境のままの景色が、駅の外に残っています。駅の北は研究所の町で、駅の中では交響曲が流れる(予定でした)。谷戸の田んぼと、働く町と、オーケストラが、ひとつの駅に集まっています。ほかの6駅の資料には、この組み合わせは見つかりませんでした。

次の一歩

次の休日に、黒川駅を、もう一度、地図で開いてみてください。駅の南北で、景色が分かれているはずです。

歩くなら、区のウォーキングマップのコース(坂道の多い麻生区を、ラクに歩く)が、黒川駅を通ります。11月は「緑と道の美術展」がありますし、ほかの6駅と並べて見たい人は、麻生区の7つの駅を並べてみたへ。地名のなぞが好きな人は、「新百合ヶ丘」は、住所にないも、どうぞ。

駅のまとめページは、黒川駅の一覧です。となりの駅は、栗平とはるひ野。

出典

内容は変わることがあります。最新は公式の案内で確認してください。

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